レムールサーカスに寄せて、島先生より |
日本アイアイファンド代表の島泰三先生(マダガスカル国シュヴァリエ、理学博士、マダガスカルアイアイ・ファンド(MAF)名誉会長) より、レムールサーカスにコメントをいただきました。
日本アイアイファンド
島先生は、自ら何度もマダガスカルを訪れ、アイアイやレムールたちの研究や、動物たちの棲む森の保全活動に尽力しているマダガスカル生きものについての最前線で活躍している研究者です。
「原初にして正統」という『レムールサーカス』冒頭の一文を見た瞬間、「こいつはやるな!」と感じました。
マダガスカルという世界の異質さは、見たものでなければ理解できないものです。それを見ないうちにこういう風に言えるのは、ただものではない、と。
2010年にボルネオに始めて行き、オランウータンを見、世界最大の花ラフレシアを見ても、まだまだ、ボルネオという世界の実体を感じ取るまでにはいきませんでしたが、ボルネオゾウの一群に出会った時、「そうか!」と感じたことがありました。「ここは大陸だ」と。氷河期は生命の歴史から言えば、ほんの一瞬前の一万三千年前に極大期を迎えたのですが、その時、海は100メートルも後退し、ボルネオ、スマトラ、ジャワの三大島はインドシナ半島と連結した大熱帯大陸、スンダランドになっていたのです。しかも、生命の歴史から言えば、海が今ほど膨れ上がったことのほうが珍しく、スンダランドは一億年の継続した歴史を持っていると見たほうがいいのです。だから、熱帯における世界最高の木があり、熱帯雨林の50メートルの高木層の上に、さらに「突出層」という最高90メートルに達する大木があるのです。世界最大の花も最高木も、ここには一億年の継続した熱帯雨林があるからこそ、その極限までの展開、生命の可能性の極限が試され、実現しているわけです。
同じことが、実は、マダガスカルにも言えるのです。マダガスカルへの人間の侵入はここ1000年以内とされていて、世界でもっとも遅く人間が入植した場所なのですが、もしも、人間さえ入ってこなかったら、そこには100キロを越す巨大原猿類をはじめとして、世界最大の鳥、エピオルニスや巨大カメ(いずれも300キロ以上)を有する独特の宇宙だったでしょう。今では、ほとんど失われてしまっているのですが、その片鱗をマダガスカルの無人島で感じて、一億年前から地球のほかの世界から隔絶されて別の宇宙を飛んできた「時の箱舟」こそ、マダガスカルなのだ、と思いました。17世紀のフランス人博物学者が言ったように、「造化の神は、ここではまったく新しいデザインを試みているのだ」という世界です。
私は世界をいっしょに回っている阿部雄介カメラマンによく言うのです。
「この世にはよく理解されていない二つの熱帯大陸がある。ひとつは熱帯アフリカに匹敵する規模をもつスンダランド、もうひとつはマダガスカルがかつてその一部だったレムリア大陸である」と。
レムリア大陸の残した生命たち、世界最小のサル、ベルテネズミキツネザルを見てほしい。それは30グラムしかない。世界最大最小のカメレオンもいるし、世界最小のカエルもまだいる。人の手の入っていない森の中では、思ってもみなかった生命のデザインに出会うはずだ。
それにしても、そのマダガスカルの空の碧いこと。
島泰三
日本アイアイファンド
島先生は、自ら何度もマダガスカルを訪れ、アイアイやレムールたちの研究や、動物たちの棲む森の保全活動に尽力しているマダガスカル生きものについての最前線で活躍している研究者です。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「原初にして正統」という『レムールサーカス』冒頭の一文を見た瞬間、「こいつはやるな!」と感じました。
マダガスカルという世界の異質さは、見たものでなければ理解できないものです。それを見ないうちにこういう風に言えるのは、ただものではない、と。
2010年にボルネオに始めて行き、オランウータンを見、世界最大の花ラフレシアを見ても、まだまだ、ボルネオという世界の実体を感じ取るまでにはいきませんでしたが、ボルネオゾウの一群に出会った時、「そうか!」と感じたことがありました。「ここは大陸だ」と。氷河期は生命の歴史から言えば、ほんの一瞬前の一万三千年前に極大期を迎えたのですが、その時、海は100メートルも後退し、ボルネオ、スマトラ、ジャワの三大島はインドシナ半島と連結した大熱帯大陸、スンダランドになっていたのです。しかも、生命の歴史から言えば、海が今ほど膨れ上がったことのほうが珍しく、スンダランドは一億年の継続した歴史を持っていると見たほうがいいのです。だから、熱帯における世界最高の木があり、熱帯雨林の50メートルの高木層の上に、さらに「突出層」という最高90メートルに達する大木があるのです。世界最大の花も最高木も、ここには一億年の継続した熱帯雨林があるからこそ、その極限までの展開、生命の可能性の極限が試され、実現しているわけです。
同じことが、実は、マダガスカルにも言えるのです。マダガスカルへの人間の侵入はここ1000年以内とされていて、世界でもっとも遅く人間が入植した場所なのですが、もしも、人間さえ入ってこなかったら、そこには100キロを越す巨大原猿類をはじめとして、世界最大の鳥、エピオルニスや巨大カメ(いずれも300キロ以上)を有する独特の宇宙だったでしょう。今では、ほとんど失われてしまっているのですが、その片鱗をマダガスカルの無人島で感じて、一億年前から地球のほかの世界から隔絶されて別の宇宙を飛んできた「時の箱舟」こそ、マダガスカルなのだ、と思いました。17世紀のフランス人博物学者が言ったように、「造化の神は、ここではまったく新しいデザインを試みているのだ」という世界です。
私は世界をいっしょに回っている阿部雄介カメラマンによく言うのです。
「この世にはよく理解されていない二つの熱帯大陸がある。ひとつは熱帯アフリカに匹敵する規模をもつスンダランド、もうひとつはマダガスカルがかつてその一部だったレムリア大陸である」と。
レムリア大陸の残した生命たち、世界最小のサル、ベルテネズミキツネザルを見てほしい。それは30グラムしかない。世界最大最小のカメレオンもいるし、世界最小のカエルもまだいる。人の手の入っていない森の中では、思ってもみなかった生命のデザインに出会うはずだ。
それにしても、そのマダガスカルの空の碧いこと。
島泰三